阿呆船ポスター

阿呆船パンフレットより


演出ノート「狂気をめぐる」

五年前に上演した「狂人教育」から、ずっと狂気について考えている。

人間はなぜ狂うのか? 狂気とは何か?

ミシェル・フーコーの「狂気の歴史」を読みながら、この本と現代との

接点を探ってきた。そして思ったのは人間はもともと狂気の種子を隠し

もった存在であり、狂気のなかにこそ人間の本質が垣間見られるのでは

ないかということである。


動物のなかで狂うのは人間だけである。ならば狂気というのはもっとも

人間的行為なのではないか。そして、狂気という行為をもっとも純粋に

もっとも端的に表現するものは、演劇ではないか。

演劇の発祥から紐解くまでもなく、演劇のトランス性、憑依性は祝祭的

演劇においては欠くことのできない重大要素である。狂気こそが演劇の

母であり、演劇が社会に対して、何らかの伝播力を持つとしたら、それ

はこの母たるものの力に他ならない。

人類の歴史の転換点において、理性が果たした役わりと、狂気が果たし

た役わりと、どちらのほうが多いだろうか? 歴史が大きくうねり動くとき

狂気の力が働くことは、数々の戦争や革命において実証されている。

人間の歴史を作ってきたものも、また狂気なのである。


人間と狂気、演劇と狂気、歴史と狂気、この狂気をめぐる関係性を考え

るとき、今日の社会の病巣が見えてくる。日本では毎年三万人以上の

自殺者がいる。これは充分に異常なことである。われわれはそのような

狂った日常に生きているのである。


そして、演劇は社会現象のはざまに取り残されて、孤児のように細々と

生きていて、ときにパイの取り合いでちょっとばかり揉めるほかは、

静かな流れに身をまかせている。いまこそ母たる狂気の力をかりて、

演劇が本来もっている祝祭性を取り戻し、社会に対してその存在感を

見せつける日を望むが、それもまた狂人の夢なのかもしれない。


■スタッフ


演  出・・・・・・・・長野 和文

美  術・・・・・・・・朝倉 摂

照  明・・・・・・・・大野 道乃

照明操作・・・・・・・中田 隆則

音  響・・・・・・・・高沼 薫

衣 裳・・・・・・・・・・美坂 公子

舞台監督・・・・・・・田中 新一(東京メザマシ団)

演出助手・・・・・・・原田 武志(劇団ING進行形)

制作協力・・・・・・・潮田 塁(猫ノ手)

企画制作・・・・・・・池の下


■キャスト


鬼頭 理沙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どぶ猫

野口 和彦・・・・・・・・・・・・皮なめし/オペラ歌手/薔薇の貴婦人

稲川 実加・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黒衣/女優/影少女

深沢 幸弘(鬼面組)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・影の男

中村 雄介(鬼面組)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・眠り男

芹澤 あい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少女人形

井口 香(テラ・アーツ・ファクトリー)・・・・・・・・おばさん/地震女

大桑 笑生(エムズプロモーション)・・・・・・・・・・女の子/包帯少女

植村 てつみ・・・・・・・・・・・・・山羊を連れた狂人/天体望遠鏡魔

須山 剛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・職人/学者

岩倉 金太郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・裁判長

中山 茉莉(劇団ING進行形)・・・・・少女つぐみ/情婦/淫売女/白少女

伊藤 全記(劇団ING進行形)・・・・・・・・弁護人/文法学者/大砲男1

近原 正芳(劇団ING進行形)・・・被告人/思い出し笑いする男/大砲男2

吉田 朋玄(劇団ING進行形)・・・・・・・・・・検事/人間犬/大砲男3

遠藤 貴博(劇団ING進行形)・・・遊園地の貴婦人/異端審問官/大砲男4

高田 晃宏・・・・・・・・・・・・・・・穴掘り男1/心霊術師/箱男2

松永 健資・・・・・・・・・・穴掘り男2/屠殺人/金槌偏執狂/箱男1


◆協  力


有限会社スチールサイト(宮村 成雄)

高津映画装飾株式会社(中村 エリト)

有限会社パーツスタジオ  萩田勝巳


◆助  成


芸術文化振興基金助成事業


PROFILE